Vol.6 利益を出すために、社長は〇〇を捨てよう

先日、都内の〇町へ行ってきました。「そういえば、A社長のお店がこの近くにあるな」と思い立ち、5年前の支援先に立ち寄ってみました。A社長の会社は、洋服のリフォーム業を営んでいます。本社を訪問し、A社長を見つけてご挨拶すると、「いやー、先生、その節はお世話になりました。」と歓迎してくださいました。

 

最近どうですか?とお聞きすると、「お陰様で今は楽しく商売させてもらっています。最近、年に2回、息子がいる海外に夫婦で出かけるんです。現地を観光して回って、息子と酒を飲むのが楽しいんですよ」とのこと。とても幸せそうな様子に、こちらもうれしくなりました。5年前がまるで嘘みたいですね、と笑い合えたことは、経営コンサルタントとしては本当に嬉しいことでした。

 

5年前、右肩下がりの原因は...

5年前、A社長は洋服リフォーム業の店舗を3店舗経営されていましたが、会社全体としての売上は右肩下がりでした。毎年毎年、売上が減っていくのです。

 

「なんとか利益を出したい」と、私のところへ相談にみえたのですが、調べてみると売上が下がった最大の原因は「法人事業」にありました。

 

当時、A社長の会社の近くにはいくつも商業施設がありました。その中に入っている色々なブランドショップから、スカートやズボンの裾上げ、丈詰めなどを受注するのが「法人事業」でした。

 

しかし、数年前にそのエリアから大手百貨店が撤退し、残る商業施設のアパレルショップも軒並み不振。ブランドショップからの依頼が減少し続け、逆に値引きの要請は増え続け、その結果、法人事業の売上が下がっていたのでした。

 

利益を出せる可能性は...

A社長の3つの店舗を拝見したところ、3店舗のうちの2店舗は、個人客の依頼が安定しており、メニューと販促策をテコ入れすれば、売上がまだ伸び代があると判断できました。

 

しかし、残る1店舗は、立地の関係から、伸び代が見えません。その店舗は、以前売上がピークだった頃、10人近くの職人さんが作業をしていた工房でもあり、私が伺った頃は、だだっ広い工房で2人の職人さんがミシンやアイロンや色とりどりの糸に囲まれて作業をしているだけでした。家賃に対して売上は相当に低く、店舗別損益でいえば、完全に赤字です。

提案に対して、社長の抵抗...

数字分析を行ったうえでのこちらの提案は、次の2つでした。

  ① 薄利な法人事業(アパレルの店舗からの受注)の撤退

  ② 3拠点のうちの、赤字の1拠点を閉鎖。他の拠点と統合する

 

そのうえで、残る2拠点のメニュー構成と販促策を見直して、堅実に利益を出すことを目指したわけです。

 

しかし、この提案の実行を、A社長は渋りました。

 

有名ブランドのお店との取引があるのは名誉なこと、だから法人事業は続けたい気持ちがある。

 

たとえ広すぎるにしても、広い店舗を持っていることが、実は自分の誇りであり自慢だった。だから、無駄な見栄かもしれないが、店舗閉鎖はしたくないんです...と。

保守的な感情が、判断を誤らせる

ふだんどんなに賢い人でも、「当事者」になって問題の渦中にいると、客観的な判断ができなくなるのはよくあることです。

 

決断は、慣れ親しんだやり方を捨てて、新しいやり方を始めることです。未知の手法や世界は人を不安にします。そこで、保守的な感情が働くのですね。「たとえ薄利でも、今まで通りに動いていた方がいくらか安心だ」というように。

 

また、「努力すること」「勤勉であること」「あきらめないこと」は日本人の美徳ですから、「撤退すること」は、努力・勤勉という自分の価値が損なわれるような感覚、道半ばで投げ出してしまうような罪悪感、を感じることもあります。

 

また、A社長のように、自分の窮地を感じていながら、見栄、つまり「恥をかきたくない」という心情も働きます。

 

そういう、複雑に絡み合った「保守的な感情」は、とても強い力で、社長の前進を止めようとします。「そんなことは経験したことがない。(だから怖い)」「ここにとどまっていた方が安心だ。」「今のままでも、がんばればなんとかなるはずだ」etc.

 

そうして、利益が見えない赤字の道を、どこまでも歩き続けてしまう経営者は、本当に多いのです。

「保守的な感情」を認識して、数字で判断する

経営者の最も大事な使命は、なんといっても「利益を出すこと」です。社長の判断、社長の働きは、利益・現金増加に結びつかなければいけません。

 

ネガティブな感情、現実に留まろうとする感情を乗り越えて、きちんと利益が出る判断をするためには、まず、人間が「保守的な感情」を持っていること、それが経営判断を鈍らせること、を知っておくことです。

 

判断するにあたっては、数字で考えるのが一番です。不安な感情を完全に捨てることは難しいのですが、数字に集中することで、判断を間違う可能性は激減します。 

 

会社は〇〇円の損を出している。しかし、今後3年で、〇〇円儲けていきたい。そのためにどんな打ち手があるのか?打ち手がないとすればどうするか?いま何をしなければいけないのか? 数字と現実に集中し、判断し、行動していくのです。

A社長のその後..

そうやって、何度かお会いして話すうちに、A社長はご自分の会社が置かれている状況を理解し、最終的には、赤字部門からの撤退と、赤字店舗の閉鎖を決断をしました。

 

赤字部門からの撤退は、確かに売上を下げはします。しかし、実質的にはそこにかかる作業や手間(=人件費)を減らしますので、A社長の会社の場合、最終的にはトントンになりました。

 

赤字店舗を閉鎖することによって、その分の家賃を削減でき、利益を増やすことができました。(月々20万の家賃×12か月=年間240万の経費削減効果)

 

その後、A社長は、個人顧客向けのメニュー構成をしっかりと刷新し、残る2店舗を使って個人顧客の開拓に取り組みました。客数も順調に伸び、技術力の高さからリピートのお客様もたくさん来られます。

 

今は、「値引きしてほしい」という要請に、にがにがしい思いをすることもなく、悠々とご商売を楽しまれています。(個人のお客様は、めったに値引きを求めたりしないですからね。)

 

その結果、「年に2回の海外旅行で息子と酒を飲むのが楽しい」という状況を作れるようになったのですね。

 

さて。

 

あなたは、プライドや不安にとらわれて、大事な決断から目をそらしていないでしょうか?

 

数字と現実を見つめて、黒字につながる経営をしているでしょうか?

 

そして、幸せに経営をしていますか?

 

うーん...と黙り込んでしまったあなた。

 

今、あなたの事業を見直す時です。

 

 

 


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