Vol.8 “お・も・て・な・し“は経営改善の切り札ではない

先日の日経新聞で、日本の時計販売店がアジアで成長している話が紹介されていました。記事によれば、その時計店は、中国を始めとして、ベトナム、カンボジア等に店舗を持ち、売上を拡大しているそう。

なぜカンボジアの時計店の売上が伸びたのか

 記事によれば、カンボジア・プノンペンのイオンに出店したその店舗では、主にセイコーやシチズンなど日本の時計メーカーの商品を取り扱い、壊れても修理できるアフターフォローを重視しているとのこと。

 

 さらに、記事が紹介するのは、日本ならではの接客スタイル。来店されたお客様が何も買わなくても、現地スタッフには「ありがとうございました」と頭を下げる接客を徹底させる。(現地ではそういう習慣がないので、スタッフ教育に苦労した、というエピソード付きで。)

 

そして、スタッフは、お客様が購入した商品を丁寧にラッピングする。はたまた、販売スタッフは浴衣を着てお客様をおもてなしし、お客様に日本らしさを感じていただく...そして、記事の隣の写真は、浴衣姿でお客様に頭を下げる女性販売員。

 

 一見ハッピーな成功事例紹介ですが、私の中には「おや?」と違和感が生まれます。なぜならば、この記事には「おもてなし至上主義」のニオイがするからです。

おもてなし至上主義とは?

「おもてなし至上主義」というのは、私の造語ですが、「おもてなし」という言葉に象徴される「日本独特の丁寧な接客」を、日本企業が生き残るための「切り札」として、捉えるような、考え方や行動の仕方を指しています。

 

2013年のIOC総会で、オリンピックを誘致するために滝川クリスタルさんが素敵な笑顔で「お・も・て・な・し」をアピールしてからというもの、日本人の多くが「そうだ、自分たちには“おもてなし”があった!」とばかりに、 “おもてなし”に目覚める、という現象が起きました。

 

その翌年には、日本の「おもてなし」を使って海外で事業を行う企業に対して行政が助成金を出す、というような動きさえありました。(1年で廃止されましたが。)

 

事業が低迷する中小企業が「おもてなしなら自分たちにもできる!」と、“おもてなし“を経営を変える「希望の星」であると捉えるような雰囲気を、今でも時々強く感じます。(今回の新聞記事もそうですね。)

“おもてなし“は企業経営の「切り札」ではない

一般市民として外国のお客様を(あるいは日本人のお客様を)おもてなしするだけなら、何ら問題ないのです。日本人の誇りをかけて“おもてなし”しましょう!私も張り切って”おもてなし”するつもりですよ。

 

しかし、「経営者」が、しかも先行き不安な中小企業の経営者が“おもてなし至上主義”になびいてはいけません。

 

冷静に考えればわかることですが、小売業でも、サービス業でも、事業の中心は「どこで・誰に・何を・いくらで売るか」です。つまり、「立地・客層・商品構成・価格」ですね。

 

売上が伸びないとしたら、「立地・客層・商品構成・価格」のどれかを(または全部を)を変えたほうが、より確実に成果を出すことができます。(あるいは、広告宣伝費にお金をかけるか、ですね。)

 

いずれにせよ、「おもてなし」という言葉に象徴される「接客」は、事業の副次的な要素、ひとつの販売手法に過ぎません。ましてや、瀬戸際の企業の経営をV字回復させるような「切り札」「希望の星」にはなりえません。

客数を増やすために企業は何をしたか

 さて、カンボジア・プノンペンのイオンの話に戻りましょう。

 

 カンボジアというのは、一人当たりのGDPが日本の30分の1しかない、いまだ貧しい国です。しかし、経済成長率は高く、日本の1960年代、70年代のような消費の伸びが期待されています。

 

2014年、プノンペンのイオンがオープンした時には、 “カンボジアの富裕層”なる未だ見えない消費者を狙って、多くの日本企業(小売業・飲食業など)が出店しました。

 

しかし、実態としては、1年、2年経つうちに、イオンに入居していた高級ブランドや飲食店が次々と撤退しています。

 

並べられた価格の商品やレストランの値段がカンボジアの人にとってはまだ高額で、当然買う人も少なく、多くの店舗で思うような客数を得られず。経費を賄うだけの売上をつくれなかったのですね。

 

生き残ったテナントの多くが、価格帯を高価格帯から中価格帯へ変更し、より多くの一般市民が買えるように、品揃え戦略と価格戦略変更しました。

 

私の知人のもカンボジアのイオンに出店しましたが、現在はオープン当初の品揃えとは全く異なる商品構成戦略を取ることで、現地の顧客に愛される店になってきています。

 

おそらく、日経新聞で紹介された時計店も、記事にはなっていませんが、客層を変える・商品構成を変える・価格帯を下げるなどの対策を取っているはずです。(あるいは、地元に向けて広告宣伝をかけたか。)単純に「接客のみ」による売上UPではないでしょう。

 

何が売上増加の決定打になったのか、私たちは慎重に見極めないといけません。

まとめ

 

ある立地の店舗で大幅に客数を増やしたいなら、客層・商品構成・価格帯など、事業の根幹を大きく変える必要があります。買わなかった人に「ありがとうございます」というくらいの接客では、瀬戸際の企業を救うほどの売上増は実現できません、

 

おもてなしや接客で売上を伸ばせると考えるのは「おもてなし至上主義」に陥っている証拠です。多くのケースで、どれだけ接客を丁寧にしても、人は、値段相応の価値を感じないもの、不必要なものは買いません。

 

重要なのは、立地に合う客層・商品構成・価格帯を変えていくことなのです。

 

あなたは「おもてなし至上主義」に陥っていないでしょうか?

本当に売上を伸ばせる戦略を持っているでしょうか?


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