Vol.43 中小企業経営者が「資金繰り地獄」に陥らないための鉄則

ある中小企業の資金繰り破綻問題

先月メディアで大きく取り上げられていたのは、成人の日を前に営業ををとりやめ、大きなトラブルに発展した「振袖レンタル会社」の破綻問題。

 

約1200人の着物購入者に対して商品が届かないなどのトラブルが発生したのですが、「一生に一度の成人式が台なし」「着物屋の社長が成人式の日に突然失踪」など、状況があまりにセンセーショナルで個人感情を不愉快に揺さぶるものだったために、世間で大きく騒がれることになりました。

 

しかし、これを「中小企業の資金繰りの破綻」とみれば、実はよくある光景。

 

企業の倒産は、平成29年度で年間8,405件(そのほぼすべてが中小企業)。負債総額は約3兆1,676億円(※)。実に1日23件、1件あたり平均3億8千万円の破産が日本のあちこちで発生しています。

予備軍を入れれば資金繰りに窮している中小企業は「普通に」存在しています。(少なくとも私にとっては”普通”です。)

 

中小企業が資金に行き詰ってくると、取引先に商品が届かない、買掛金の支払い不能、借入返済不能、従業員の給料未払い、税金滞納、さらには粉飾決算、社長の逃亡、、、と、まさに今回と同じようなことが起こります。

他社の失敗から学べ

報道や世論の中では、この社長について「雲隠れした詐欺師」「粉飾決算をするなんて信じられない」といった感情的な批判がピックアップされ、破綻の原因が社長の「人格」「資質」にあったような印象を与えています。

 

しかし10年以上にわたり中小企業の現場で経営改善を支援してきた経験から言うと、経営の成功/失敗は「人格」「資質」というよりも、「事業の条件」「ビジネスモデル」から生み出されます

 

どんな悪人でも、「良い事業条件」を満たしていれば稼ぎ続けることができるし、どんなに徳のある人でも「悪い事業条件」にハマってしまえば、いずれ破綻してしまう。

 

そして、破綻が近づけば、追加融資欲しさの粉飾決算も、「万事休す」の雲隠れも、どんな人でもやってしまうものだと、支援側の人間はよく知っています。

 

だから言えるのですが、あの企業の失敗は中小企業経営者にとって「明日は我が身」。外野から責め立てるのではなく、その根本原因に迫って、自分たちが同じ失敗を冒さないようにどうすべきなのか、学ぶべきなのです。

キャッシュを生み出す「良い事業の条件」とは

当社では「商品構成やサービスメニューの刷新」を軸にして売上や利益を上げる支援を行っています。今後、クライアント企業の成長のために、安定した売上・利益を出せる商品構成やサービスメニューを作りこんでいけることが、私たちの強みです。

 

当然、出店/閉店、改装、その際の資金の調達や返済も含め、総合的にキャッシュフローをよくするための事業を考えていくのですが、その経験から推測するのは、今回の着物レンタル会社は「非常に悪い事業条件」の中でビジネスをしていのだろう、ということ。

 

「悪い事業条件」―それは「①収益性の低いビジネスモデル」と「②過大な借入」。つまり、借入をしたが、事業が予想以上に儲からなくて、返済できなくなって破綻したというパターン。

 

では、「良い事業条件」とは何なのか?

 

単純な話ですが「良い事業条件」は、「悪い事業条件」の裏返し。

つまり、「良い事業条件」とは「①収益性の高いビジネスモデル」と「②最低限の借入」です。

「儲かるかどうか」は「ターゲット」と「商品構成・サービスメニュー」で決まる

気になる「収益性」つまり「儲かるかどうか」。

 

この「振袖レンタル・販売業」のビジネスモデルは、典型的に「儲からない可能性大」でした。

 

まず、事業戦略面。

 

・20歳の女性の成人式(や卒業式)しか顧客しか販売機会がない

・ターゲット層は今後ますます減少していく

・限定的なターゲットに大手が群がる市場での勝負

 

まず、この事業戦略の結果、初期投資がかなりかかる商売(一等地の店舗保証金、内装、在庫など)になります。(辺鄙な場所にあるチープな店だったら集客できませんし、顧客である女の子たちからの人気・信頼を得られません)後述しますが、これが初期の借入を増やす要因となります。 

 

そして、この事業戦略では、広告合戦、安売り合戦を避けられません。よって、事業維持のために膨大なコストがかかります。

 

・広告宣伝費が膨大にかかる(おそらく、売上の2割~3割)

・地代家賃が膨大にかかる(一等地の店舗)

 

では、これを避けるためにはどうしたらいいのか?

また、単純なのですが、失敗例と反対の視点が必要です。

 

 ・大手と競争が少ない/ない、かつ成長する「ターゲット」を選ぶ

 ・大手と競争が少ない/ない「商品・サービス・価格帯」の構成をする 

 ・初期投資がかからない事業を行う

 ・オペレーションコストを最低限に押さえる

 

「儲かるかどうか」は、「ターゲット」と「商品構成・サービスメニュー」でほぼ決まってしまいます。いかにお金をかけずに安定した売上と利益を出していくか、ここが経営者や私たちの知恵の絞りどころです。

 

利益が出ることを確信できないなら、借入はしない

報道で見ると、この会社は業歴8年目。主要数値は..
 売上 3億8000万/年

 赤字 △3億6000万円/年

 金融機関からの借入残高 3億8000万(※3)

破産の1年前には6店舗あったということなので、1店舗あたりの数字に換算すると..

 売上 6300万円/店/年

 赤字 △6000万円/店/年

 金融機関からの借入残高 6300万円/店

 

この赤字の額も膨大ですが、借入の金額も気の遠くなる数字です。

 

初期投資に1店舗あたり3~4000万くらいのお金がかかったとして、その後、運転資金も足りずに追加で融資を受け続けたのでしょう。(このために粉飾決算が必要だったと推測します。)

 

しかし借入返済は、売上減少で赤字転落した時に本当に重荷になります。

 

返済は「利益」から行われるものなので、赤字になれば返済するお金もない。結果、金利の高い追加融資に頼ったり、親戚・知人・友人に頼ったり、個人資産を切り崩していくしかない。

  

原則、利益が出ることを確信していない限り、借入はしないこと。

 

「利益が出ることを確信」というのは、「オレは絶対に利益を出してみせる!」という気合や、「まあなんとかなるだろう」という根拠のない楽観ではありません。優れた経営者は大胆であると同時に慎重でもあります。一度小さく実験したうえで、規模を大きくしても利益を再現できる、と自信を持てることが「確信」です

 

50店舗を展開するチェーン店が1店舗増やすのは、利益を再現できる確信を持っているから。これなら借入もOKなのです。

 

しかし、弱小の店舗経営者が借入に頼るのが、最も危ないケースです。できるだけ借入せずに利益を出せるビジネスモデルを作ること、つまり初期投資が少ない事業構造を作ることが、第一歩として重要です。

結論

「振り込め詐欺」など、悪意をベースにした「根っから悪質な事業」とは違って、中小企業の経営破綻のほとんどは、ビジネスモデルまずさによって避けがたく起こってしまう「事故」です。

 

繰り返しますが、優れた経営者は大胆さと同時に慎重さを併せ持ちます。「経営の事故」を避けるためには、交通事故を避ける時と同様、安全第一、自分の身は自分で守る、というのが鉄則。

 

そして、自分の身を守り、余裕のある資金繰りをして、次の投資のためのお金を貯めていくには、まず「収益性の高い事業戦略づくり」。具体的には、ターゲットの見直しと商品構成やサービスメニューの見直しが有効です

 

他社の失敗からありがたく学び、成長していきましょう。

中小企業にだって、生き残り、成長できる道はいくらでもあるのです。

 

 

※1 出典:商工リサーチ  http://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2017_2nd.html

※2 出典:中小企業白書 http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/h29_pdf_mokujityuuGaiyou.pdf

※3 出典:商工リサーチ  http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180126_01.html


●コラムの更新をお知らせします(毎週木曜日)

本 由美子 もと ゆみこ

㈱Sente 代表取締役

代表コンサルタント

 



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